老犬ホーム|World Animal Care Center

大阪府高石市
用途:老犬介護施設
敷地面積:180.53㎡
建築面積:100.29㎡
延床面積:177.91㎡
構造規模:RC造・地上3階

構造設計:tmsd萬田隆構造設計事務所
照明計画:スタイルマテック
施工:Arcc
撮影:淺川敏

幼少の頃、リリィという雑種犬がいた。小学校から帰るといつも散歩したり山で駆けっこしたり、釣りにもいった。ある日、自転車の籠にリリィを乗せて遠出したときのこと、リリィが破水したのである。えらい病気になったんだと思い、籠に藁を敷き詰め長い道のりをゆっくり歩いて家までたどりついた。とにかく温かくと考え毛布を用意し看病していたら次の日に小さな子犬が産まれた。ここで、リリィがお母さんなんだということに気付かされたのである。その子はシロと名付けられ、乳離れしてからはリリィに変わって遊び相手になってくれた。またあるとき、学校から帰るとリリィが居ない。祖父に聞くと、農薬を間違えて口にし、山へ逃げ込んだという。シロと必死に探し回ったが見つからない。苦しむ姿を私達に見せたくなかったのだ。いま思えば、リリィはいつも僕のお母さん役で、遊んであげているつもりがいつも遊んでもらっており、シロと一緒に面倒をみてくれていたのであろう。
一般社団法人ペットフード協会の「平成28年全国犬猫飼育実態調査」によると、犬の平均寿命は14.36歳、人に換算すれば70~75歳位。高齢犬の介護に追われる飼い主も増え、シニア期を迎えたペットの扱いが社会問題になっているという。
犬の個体に多少の違いはあるが、視力は人の約1/10、夜間視力は約3倍、色の識別能力は青〜黄とされている。嗅覚は100万倍以上あるといわれるが、目を閉じて走り回ることはできない。このことからも犬が主に目に頼って生活をしていることが伺える。また、高齢犬になると白内障や緑内障を患い、視力が低下する症例が多くみられる。この建築は「高齢犬が快適と感じる空間は、人が快適と感じる空間とは異なるかもしれない。」そんな疑問から高齢犬と人、双方が快適に過ごせる建築空間、主に採光と建築照明に着目し、実践的に模索している。
敷地は国道沿い、施設内に入射する騒音を防ぐため、傾斜した分厚い湾曲壁面を設け、1階に受付とトリミングルーム、2階にリハビリルームとホテル、3階にドッグランを配した。各居室は北側採光とし、夜間など補助的に間接照明を用いている。階段、廊下は、光源が直接目に入らないよう配慮し、リハビリルームやホテルは、上げ床とすることで腰痛対策にも考慮している。3層吹き抜けのエントランスは、天窓から唯一直射光が入射するが、幾重にも重ねた手漉和紙の暖簾を特定の向きに合わせながら配することで、生命観溢れる日照の変化を感じるとともに柔らかく乱反射した太陽光が優しく空間を包み込みこんでくれる。この光につつまれたとき、リリィの温かい眼差しを確かに感じた。建築に手漉和紙などの伝統的な技術を盛り込むことで、時間の経過と共に、ペットと人が安心して共有できる快適な空間を目指した高齢犬介護施設の計画である。

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