~和紙の茶室~ 蔡 庵


奈良県 西大寺
用途:茶室
延床面積:2帖
階数:1階
構造:越前和紙+楮
撮影:淺川敏

建築家で東京大学名誉教授の内藤廣さんが、和紙の茶室を
訪ねてくださった際に、茶室の銘を『蔡庵』(さいあん)
と名付けてくださいました。
後漢の時代に活躍した、紙の開発者・蔡倫に敬意を表した
ものだそうです。

Design For Asia Award 2015 (香港) メリット賞

【和の復興について】
僕の実家は、奈良の田舎にあります。
田の字型プランに濡れ縁がついている、いわゆるオーソドックスな日本家屋です。畳敷きの床に座布団を敷いて食事をしたり、寝そべったり、兄弟や友達と大黒柱を中心に走り回って鬼ごっごしたり、夜は布団を敷いてお爺ちゃんの寝床を取り合ったり。幼少の頃より、畳・襖・障子・屏風・衝立・巻物といったものを遊び道具にしては、こっぴどく叱られもしましたが、とにかく和の表具と触れ合う機会に恵まれていました。日々の生活から和の空間を体感し、知らず知らずのうちにその魅力を肌を持って体得してきたように思います。シックハウスでアトピーになることなんて無かったし、結露やカビに悩まされることもなかった。程よい隙間風や、深い軒先から乱反射してくるほのかな陰影、襖一枚を隔てた隣の部屋の声、透けるあかり、呼吸する壁__。和の魅力が尽きることはありません。


現代の社会では、住まい方の変動からか、新築・リフォームに関わらず、和室よりも洋室で、畳よりもフローリングで、といった要望をよく耳にします。一方、日本を代表する和紙の生産地である越前では、需要が少ない(特に日本国内で)にも関わらす、手漉きの技術や感性を落とさないために、多くの職人が、日々和紙を漉きつづけています。きめ細やかな施しを受けた和紙のほとんどが、倉庫で眠っている状況にあるのです。過剰に密閉され、機械的に空気をコントロールされた住まいが求められる昨今、日本人のアイデンティティーを原点から見つめ直し、新たな試みとして、敢えて「和の暮らしへのイノベーション」という考え方ができるのではないでしょうか。和の空間には欠かせない和紙の危機的な状況を快復し、現代社会に和の空間を復興させるべく、私たちは動き出しました。


【和紙の茶室】
・透けること・柔らかさ・ぼんやり・あかり・緊張感・書・肌ざわり・質感・吸湿、吸音・呼吸・閑けさ
数え上げたらきりがありませんが、これら全てが、繊細な和紙と密接に関わる、日本の伝統的な美学のひとつであるといえるでしょう。この度の計画では、和の空間を復興させるアイテムとして“和紙”に着目し、今までにない和紙の魅力を引き出した、お茶室をしつらえ、新たな和の美しさを表現することにしました。


花をのみ待たらん人に山里の 雪間の草の春をみせばや
~藤原家隆~


これは、利休が茶の心を伝える歌として愛誦した歌で、ただ静寂の境地にひたるだけでなく、心を静め新しい力を生み出すことが、茶の心であると述べています。お茶室は、日本の伝統の美学を集約しているといっても過言ではありませんが、新たな挑戦を幾度も繰り返し、日本の伝統となり得たのであります。


【茶室の仕様】
・2帖(1.8mx1.8mx1.8m)
・楮の皮を剥いだ枝を、主な構造体とし、壁面は和紙を積層させています。 摩擦杭を逆使いする要領で、楮の枝に短冊状に一枚ずつちぎった和紙を串刺すことで垂直荷重を分散させ、笠木と天蓋で水平耐力を補っています。
・にじり口・茶道口のフレームも楮の枝を編んだもので、茶室の全てが楮によって構成されています。


書:深井万象(書家・奈良市美術家協会事務局長)
器:古瀬文子(赤膚山窯元・8代目古瀬尭三)
茶室:橋口新一郎(建築家・近畿大学建築学部非常勤講師)
後援:大阪内装材料協同組合青年部

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